私は北海道で歯科医を開業しています。時々日常の診療で疑問に思うことがあるのです。歯科は口腔を診療の対象としていますが、なぜか口腔ケアとなるとケアする部分にかなりの温度差があるのです。
さて、あまり知られていませんが、多くの方が舌のトラブルを抱えています。しかし、歯科医院ではあまり重要視していませんでした。理由は簡単です。舌にトラブルがある方は、ほとんど歯科以外の診療科へ行ってしまうからです。そういった科では、おしなべて「ウガイをするか、薬を飲む」という治療が主流になります。 最近、口腔ケアの考えが広がり、医科の先生や老健施設から舌のトラブルについて相談や依頼が来るようになりました。ほとんどが「舌が痛い」「味が感じない」など、いわゆる感覚や知覚の障害です。こういうトラブルのある方に「カンジタ検査」をすると、ほぼ100%陽性です。ひとりくらい陰性が出てもよいと思うのですが、今まで擬陽性が数人でた程度で、ほとんどカンジタ菌でいっぱいです。 ところでどうして味覚異常や感覚異常が起きるのでしょうか? 色々な説がありますが、私は舌の表面の汚れをそのままにしているところに問題があるのではないかと推測します。 舌の表面には、糸状乳頭という小さな突起が無数にあります。この糸状乳頭の表面は、少し角質化していて白っぽい色をしています。この突起の根元には、味を感ずるセンサーの味蕾(みらい)があります。この糸状突起に歯垢がびっしりつまると、味蕾(みらい)へ味覚の刺激が届きにくくなります(食べ物の味がしない、または弱い状態)。 また、この様な状態が長く続くと当然糸状乳頭は萎縮してしまいます。そうなると、舌の地の部分、つまり赤い部分が露出されるため、舌表面がヒリヒリ痛みを感ずるのです。 そういった悪い状況の下で、カンジタに感染し口腔乾燥によりますます悪化する、といった負のスパイラルに陥ってしまうのではないかと思います。 私はこのような方には、まず舌の清掃を薦めます(決して最初から内服薬は使用しません)。この時、専用の器具(タンクリーナーなど)を用意してもらう話をします。歯ブラシで擦ることが舌の清掃に有効・無効の論議がありますが、私の場合は必ず専用器具を用意していただいております。理由は、歯磨きのついでに、歯磨き粉のついたブラシで擦る方多いからです。刺激的な味の歯磨き粉がついたまま味覚異常や感覚障害が起きている舌を擦りつけることが非常に心配です。専用のクリーナーならわざわざ歯磨き粉をつける方はほとんどいらっしゃいませんから・・。 それから、患者さまには「どうして、舌を磨くのか?」についての説明をするか、プロモーションビデオを見せて私の考え方を理解していただいてからお願いするようにしています。さらに、このクリーナーを力まかせに誤った方法で使っている方が多いので、正しい使い方を説明してから行っていただくようにしています。 このクリーナーを使って清掃すると、使用説明書には「4週間程度で効果が出る」と書いてありますが、患者さまに伺うと平均で数日から1週間程度で改善の兆しが出てくるとおっしゃいます。このことから考えても、日本人の舌はとても汚れているような気がします。 私はクリーナーを使って、それでも効果がないときに初めて内服薬を使うことにしています。 さて私がなぜこの舌用クリーナーにこだわるかと申しますと、このクリーナーが舌表面の歯垢を落とすのに非常に理にかなっているからです。人間の舌の表面は、糸状乳頭がカーペットの繊維の小さな束ように表面をびっしり覆っています。一方、歯垢(プラーク、最近ではバイオフィルムなど呼ばれています)は水に溶けにくくネバネバしています。もちろん、歯垢は口腔内にたくさん存在します。これが、舌の糸状乳頭にからみついているため、舌の表面についた歯垢は簡単にはとれないのです。 歯垢が舌の表面に付着している状態は、カーペットの上にピーナツバターをこぼしたときの状態と非常に似ています。こぼしたピーナッツバターを取り除くには、全体をすくうようにしてとると効率よく落とすことができます。これがまさに舌用のクリーナーで歯垢を落とす業と同じなのです。 タンクリーナーでの歯垢の除去は、口臭の予防にも効果があると言われています。舌の表面は歯ぐきと並んで、口臭の最大の発生源となっているのです。 また、個人的な経験で恐縮ですが、私は以前から慢性的に鼻に炎症があり、常時片方の鼻がつまっていました。ところがあるカナダの大学の先生に舌クリーナーでの清掃を薦められ、半信半疑でこの方法を行ってみました。すると長年悩んでいた鼻の炎症が小さくなり、常にとは言いませんがほとんどの場合で両方の鼻がつまらなくなりました。その先生のお話ですと、「鼻と口と耳は繋がっている。アメリカなどでは慢性の炎症が鼻や耳にある時には口腔ケアをするのは常識である」とのことでした。 「マウスウォッシュや消毒薬でウガイすれば口腔はきれいになるのでは?」と思っている方がいらっしゃいますが、歯垢は水に溶けにくい上にネバネバしているので、結果としてマウスウォッシュや消毒薬の浸透を妨げてしまうのです。ちょうど歯垢が膜のように覆ってこれらの浸透を妨げるので「バイオフィルム」とも呼ばれています。ですから、舌についた歯垢は原始的にこすって除去するのが基本となります。 この舌用のクリーナーには大きく分けてO型とT型があります。O型は効率性がよく、T型は嘔吐反射がある方に有効です。使用する際には磨き粉をつけるなどの作業はなく、非常に手軽に使うことができます。 この舌用のクリーナーは残念ながら一部の歯科医院かドラッグストアにしか置いてありません。ご購入される時は、使い方を充分説明してもらえる所から購入してください。(数が少ないものの、こういった基本的なケアに熱心な先生があなたのそばにも必ずいると思っております) 舌のクリーニングはみなさんの祖先がしていたすばらしい習慣です。21世紀の現代にみなさんの手で復活させてみてはいかがでしょうか? |
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| <2006.10.4> |
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