私がこの歯科の世界に入って、もう四半世紀が過ぎている。私の修行時代は、まさに技術習得一筋の時代だった。また患者さまも、そういった高い技術を持った先生をもてはやしてきた時代だった。ところが最近ではどうも事情が違ってきている。ある調査で「あなたはどのような理由で歯科医院を選びますか?」という質問に対し、「先生のウデがよいから」というのがもうベスト10の圏外から消えて久しい。
話は変わって私が懇意にしている日本料理店がある。「日本料理店」というとたいそう高級な店を想像するが、けっこう気軽に入れる店で、店主は自らの店を「大衆割烹」と呼んでいる。ここの店主は今時珍しく、小さいときから苦労をし、つらい修行を耐えてこの街に店を出した。ところがこの店も、順風満帆ではなく挫折も経験した。彼は持ち前の不屈の精神から立ち上がった努力の人である。またこだわりも半端ではなく、自分の店の野菜も、ほとんどが店専用の畑で自ら栽培をしている。味も一級で、先日も都会から来た方が、「こんなおいしい魚を食べたことがない!」と言って、いたく感激されチップをおいていったくらいだ。 そんなわけだから、この店も徐々に客を増やし一時は大変な盛況となった。私の街は典型的な漁師町であるので、特有の浮き沈みはあるもののそれなりにやってきた。ところが地元の代々やってきた老舗の料理屋の息子さんが、地元に帰ってきて状況は一転した。 この息子さんは居酒屋タイプの日本料理店をオープンした。私個人の判断では、実際に5回ほど食べてみて、私が懇意にしている「大衆割烹」の方が味も良いし、素材も良いものを使っている。しかも地元の素材を使っている。ところが、この新しい店は企画が非常に上手なのである。私に言わせると「上手」といった領域を超えて、もう「巧み」といった感じがする。そのせいかこの「大衆割烹」のお客さんが、一時激減した。しかし3ヶ月後、以前の客の7割程度が戻ってきた。ところがさらに新しい店は、第二弾のキャンペーンを張った。このキャンペーンを良く分析すると、オープンキャンペーンは会社に勤める人を主な対象とし、第二弾のキャンペーンでは家族連れ特に主婦と子供にターゲットを絞ってあった。そのためせっかく戻った客のほとんどを、もっていかれてしまった。 結果はみなさんのご想像の通りである。ここ数日この「大衆割烹」へ行くと、客はほとんどおらず、私とごく少人数の常連たちが静かにカウンターで飲食している程度である。でもこの店主も、座して黙していたわけではない。まず営業時間を延ばした。そして得意な分野の料理を大書きしたポスターを貼った。メニューの見直しもした。でも結果は思うようにはでなかった。 この「大衆割烹」の店主の対処方針は、何か歯科の世界の対処方針に似ている。「患者さまが減少した。それじゃ診療時間を延長しよう。」これは患者減の対策で一番してはいけないことである。「看板を大きくする。」「広告を出す。」など一見有効な対策と思えるが、実際やってみて失敗して気がつく。しかし私も含めてこのようなことをして患者数が増えると思っている歯科医師の根底に、「ウデがよければ必ず患者さまはついて来てくれる。」といううぬぼれにも似た自信?があるのかもしれない。人間相手の仕事の難しさを痛感した。 |
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| <2006.3.3> |
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