僻地に生きる歯科医
信じるものも救われない〜患者のワガママと歯科医師のワガママ?〜

地ではかつて出稼ぎが盛んであった。ところが、最近では出稼ぎへ出かける人が急速に減少した。都会が不景気であるのが最大の理由であるが、陰にはあまり大きな声で言えないような事情がある。かつて冬は文字どおり何もない冬であったが、最近は養殖事業が産業として軌道に載って来た。それに伴って冬期に養殖の準備作業という特需が地域にもたらされた。労働はきついし、熟練を要するが出来高払いのため高校生でも中には20〜30万円以上も稼ぐ者も出たりする。そんな状況だから年末で仕事をやめ、翌年4月までこっそり雇用保険を受け取りながらこのアルバイトをするのである。当然その間はなにがしらの健康保険に加入しなくてはいけないのであるが大部分の人は非加入であることが多い。そのせいかどうかは知らないが、よく患者さんから「12月で健康保険が切れますので12月中に終了させてください」と頼まれる。

ういった患者さんがあまりにも多いので、保険者にこの事態を是正するように頼んだら反対に「数があまりにも多い上に、下手に取締るとほとんどの人がなんらかの形で役所に親戚がいるので、行政に支障がでる可能性があるので、現時点では是正は出来ない」とわざわざ課長自らがご丁寧にも来院して説明してくれた。

ういうわけだから、12月末に治療を中断して4月に治療を再開することは決して珍しいことではなく、治療期間が足掛け半年以上にも及ぶことがある。

前バスに乗った時のことであった。上記のような理由で義歯を作るのに半年以上かかったおばあちやんが車内で病院批判をしていた。このおばあちやんはこれから歯科診療に行こうとしている数人のお年寄りに「○△先生(私のこと)の所で義歯を作ったら半年以上もかかってしまったよ。去年の年末にかかったら、できたのがもうゴールデンウィークに近くなってからだもんね!良く咬めるには咬めるが、時間がかかるのは考えもんだね〜」といっていた。よっぽど「途中で四ヶ月治療を中断したのは誰だ?」と言ってやりたい気がした。

間は概して出来事や情報を自分の都合の良いように解釈する傾向がある。例えば以前よくあったことだが…総義歯を作る際、患者さんが「良い材料で、良い入れ歯を作って下さい」という。また悪いことに保険証の呈示がなかった。地方での経験が浅い先生は「自費診療」と思い込んでしまう。患者さんは当然「健康保険だ」と固く信じている。この様な時、「保険診療は健康保険を呈示して初めて成立」という健康保険の大原則をいくら説明しても聞く耳などを持ってもらえるはずがない。この種のトラブルは一般に患者さんのゴネ勝ちとなるケースが多く、結局診療所が泣かされる。

ういうわけで、昨今ではトラブルになりそうな患者さんを事前に断るような傾向が出てきた。遅刻常習者やその家族の予約を断る。診療所にわざと階段を作り身障者を排除する。要介護認定を受けている人は予約をとらない。生活保護の患者さんは診ない。(そのくせ生活保護指定医療機関のライセンスは返納はしていない)など・・・

の歯科診療所では先代より患者さんを選ばず、公平に接してきた。よく経営の本などを見ると「患者さんの質のアップが歯科診療所のレベルアップにつながります」などと書いている。果たして、このまま先代からの教えを信じて救われるかどうかは私にはわからない。
<2003.3.5>

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