私の歯科診療所には訪問診療用の椅子が1台ある。本来は防災用にと購入したのだが、そう頻繁に災害はないのでいつのまにか在宅訪問診療用になってしまった。
そんなある日、所属郡市区歯科医師会から電話があった。なんでもある被災地にボランティアに出かけるので君の往診用の椅子を貸して欲しいとの要請があった。私は「椅子だけでいいんですか?となかば冗談で言ったら「椅子の持ち主もきてほしい」とのことであった。そういうわけで私は椅子といっしょに避難所に行くことになった。 歯科のボランティアは避難されていた方から喜ばれた。実は私は小さい時大火にみまわれて、わずかの期間ではあるが避難所暮らしをしたことがある。「体育館みたいなようなところでみんなが雑魚寝」というスタイルは今も昔も基本的にはかわっていないな〜と思ったりした。驚いたことに、その時の大火で全財産失い、新天地を求めてきたものの、再び災害にあったという人が相当いらっしゃった。私の姿は大火当時の私の父の姿にそっくりらしく「ひょっとして、○△村の先生ではないでしょうか?」と声をかけられたのは一人や二人ではなかった。かつての同郷の好で話に花が咲き、色々と身の上話などをした。このなかで少し気になる話題があった。年金の話である。 年金を満額もらっている人たちの多くは「全財産なくしても、夫婦そろって健康で年金を満額もらっているので、よその町へいっても町営住宅なんかを貸してもらって暮らせばなんとかなりますよ」と楽天的な反面、年金がないかわずかな人は「全ての収入の道(観光地が被災したため、そこでの収入が期待できなくなった)が断たれ、避難所を出たら明日から何を食べていけばいいのか分からない」という人が多かった。たかが年金といえどもこんなに被災後の生き方に影響するとは思わなかった。 私の街の歯科診療所で社保・厚生年金に加入している所は残念ながら私の診療所のみである。私はこれも危機管理の一つかと思っているのだが、当のスッタフの方は、そんな危機管理よりも、今1円でも多く欲しいというのが正直いって本音かもしれない。その気持ちを逆手にとって「ウチでは余計なものには入っていないから、この地域では一番手取りの割合が多いんだよ」とウソ吹いている先生もいる。 ところがそんなある日、健康を絵で書いたようなスタッフが突然病気で長期に入院した。私はここぞとばかりに「社会保険があるので、長期入院しても給与がまったく0となることはないので安心して療養に専念しないさい」と言った。私の心境が少しでも伝わればと念じながら。 |
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| <2002.9.4> |
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