味彩通信
Vol.90-2009.6
幸福のファースト・コンタクト&インプレッション

 関西において、代表的な夏の味覚のひとつに挙げられるのが“鱧”。しかし、私はつい4〜5年前まで、この鱧の醍醐味というのが、ち〜っとも解りませんでした。
 各種料理本には、さもさも旨そうに書いてあるのですが、デパートの鮮魚売り場で買った梅肉を添えた鱧の落としも、京都・錦市場で買ったかば焼きや照り焼きも、食感はパサパサとして、味もあるんだかないんだか。別にまずくて食べられない、というわけではないのですが、なにがそんなにありがたいんじゃ、といった感じ。

 しかし、とある時、とある懐石料理屋さんで鱧のお椀をいただく機会があり、いきなりまさかの開眼。薄く葛をまとった鱧は、箸を入れると白い身はふっくりと柔らかく、澄んだ出汁の表面には綺麗な細かい脂が浮き、淡泊な味わいの中にも、力強さが漲る味わい。いや、これなら話は分かります。ビバ、鱧! 確かにキミは旨い。見損なったまま、歳を重ねることにならなくて、本当に良かった。

 ところで、話は変わって…。
 先日、兵庫県・明石市を訪れました。今回、私のお目当てのひとつが“明石焼き”。実は、これまで一度も口にしたことのない食べものです。
 “明石焼き”は地元では“玉子焼”と呼ばれ、なんでもたこ焼きのルーツとも言われているそうですが、事前に、食べたことがあるという人に聞いてみると、他県人には意外とコレ、人気がない。「う〜ん、悪くはないと思うんだけど、たこ焼きの方が好きかなぁ?」という意見が大半です。え、そうなの?

 とはいえ、そう言われると、是が非でも明石焼きと幸福な出会いをしてみたいと思うのが、いやしんぼの性。そこで現地到着後、あちこちで地元民に早速リサーチを開始しました。のっけに、“初めて明石焼きを食べて、とてもおいしかったと、どうしても東京で言いふらしたい”とかき口説くように訴えると、皆さん、「ようけ人が並んでる、あそこの店な。だけど、あれはダメや。観光客向け。うちらはよういかんね。それよりもな…」といった具合で、実にまぁ、親切かつ協力的。結局、その中で、最も多くの票を集めた店に、ターゲットを絞りました。

 店はレトロな構えで、いかにも地元民御用達といった風情。おばちゃんのてきぱきとした手際もシズル感たっぷりです。そして、待つことしばし、やがて、目の前に運ばれてきた明石焼きは、ぽってりとまぁるく、幸福感の漂う湯気がほわわ〜ん。それを、お椀に張られたつゆにポトンと落としてほおばると…。まわりはほんのり香ばしく、中はとろとろのアツアツ。味のイメージは、たこ焼きというより、むしろ茶碗蒸しに近い感じ。うわ〜、おいひ〜〜。私、コレ、好きだなぁ。いいじゃん、明石焼き。

 料理でも素材でも、ファースト・コンタクト&インプレッションは結構、大事。初めに幸せな出会いがあれば、その先の人生がより豊かになるところは、人との関係にも、ちょっと似たところがあるような気がします。もっとも、最初は“ヘンなの”と思っていても、途中で“あ、いいヤツだった!”と思うこともあるわけですけれどもさ。
佐伯明子

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