味彩通信
Vol.80-2008.6
バンコクの底力

 この春、タイのバンコクを、訪れました。
 タイの首都であるバンコクは、実に活気のある街で、快適な地下鉄も通り、きれいなマンションや高級ホテル、ファッションビルなども立ち並びますが、ごく一部のエリアを除いては、つつましやかな暮らしを営んでいる人がたくさんいます。日本ではとんと見かけなくなったもの乞いもまだまだ多く、中にはごく小さな子どもや、赤ちゃんを抱いた母親などもいて、胸が痛むこともあるのですが、そんな旅人の安っぽいおセンチなど吹き飛ばすような、ひたむきに生きるバイタリティがバンコクには溢れています。

 そのたくましいパワーを根底で支えていると私が睨んだのは、街中いたるところに並ぶ食べものの屋台。日本でもおなじみのタイ風カレーはもとより、鶏の炭火焼きや春巻き、ちまき、スープにチャーハン、野菜の炒め物、魚の煮物などのおかず類から、フレッシュな南国フルーツや焼きバナナ、タピオカといったおやつまで、実に多彩な品揃えで、これらはすべて持ち帰りができるシステム。価格はひと品5〜20バーツ(約17〜65円)程度で、日本とは物価の違いがあるとはいえ、バンコクでは日々の食事をすべて屋台でまかなうのも珍しくないということなので、庶民のお財布に優しい値段であることには間違いなさそう。

 さて、街中を歩いていると、一日中時間を問わず、誰かしらもぐもぐと口を動かしているシーンに遭遇します。彼らにとっては、“3度の食事”という言葉はあまり意味がなく、とにかくおなかが空いたときがお食事タイム。なんでもタイでは、知り合いに会うと、まず聞くのは「ご飯食べた?」なのだとか。
 歩道脇に出したパイプ椅子などに適当に座って、あっちではセンミー・ナーム(汁かけ米麺)をツルツル、こっちでは生の青唐辛子をかじりながら腸詰めをパクパク、さらにその向こうではグリーンマンゴーをポリポリといった具合なのですが、本当にあっけにとられるくらいの、みごとな食べっぷり。しかも、ひとり黙って食事をしている人はあまり見かけず、何人かでワイワイ、いかにも楽しそうにテーブルを囲んでいます。

 決して豊かとは言い難い暮らしの中で、みんなでモリモリ食べて、せっせと働き、家族や仲間と笑いあい、力強く生きる人々。食べることは生きること。生きることは食べること。そんなことを改めて感じたタイの旅でした。
佐伯明子

佐伯明子さんのプロフィールはこちら


INDEX