味彩通信
Vol.68-2007.4
春に光る白き裸身

 今年は暖冬といわれながらも、それなりに寒さと暖かさは行きつ戻りつし、ようやく本格的な春を感じる今日この頃。コート1枚分軽くなった体に感じるぬくやかな風に、思わず気分も浮き立とうというもの。

 春、といえば山菜のシーズンで、店先に並び始めると目移りすることしきりなのですが、ここ数年、もうひとつこの季節に楽しみにしているのが“ホワイトアスパラガス”です。

 でもそれはあくまで最近の話で、実は子どもの頃の私は、このホワイトアスパラガスが大の苦手。というのも当時、アスパラガスといえば、缶詰のホワイトアスパラガスしかなく、生はホワイトどころかグリーンアスパラガスすらない時代。
 缶の中でふやけきったホワイトアスパラガスは、ぐんにゃりべろりと頼りなく、そのくせ口に入れるとやけに筋っぽい感じが残るのも気持ち悪く、私の脳には「アスパラガス=まずいもの」とインプットされたのです。そういえば、当時はやっていた“ギンビスのアスパラ”というお菓子も、形が似ているだけにもかかわらず、食べたことがなかったなぁ。

 その後しばらくして、グリーンアスパラガスが普通にスーパーに出回るようになり、さらに時を経て生のホワイトアスパラガスを初めて味わったときは、まさに衝撃。
 うんまぁ〜〜いよう〜!

 ホワイトアスパラガスはヨーロッパ、特にフランスでは3〜4月くらいが出盛りの春の味として親しまれ、日本の筍のように、旬を代表する食材なのだそう。最近では日本でもわりと通年でスーパーで見かけることが増えましたが、春先になると風味も良くなり柔らかさもぐんとアップ。

 厚めに皮をむいてから、たっぷりの湯でほどよき加減に塩ゆでしたホワイトアスパラガスを、鍋から引き上げ、抱きかかえるように器にそっと横たえると…。
 ほのかに湯気をまとい、淡い春の光を映して輝くその裸身。透き通るような肌は、まるでうら若き処女の如し。おもむろにナイフをすっと差し入れると、かすかな抵抗を見せながらも、さくぅりと切れ、断面からは、しるしるとしたたる雫。んふっふ。よいではないか、よいではないか。されば口に含むと…。すがすがしい苦みと春の香りが駆けめぐります。

 マヨネーズとの相性も抜群ですが、ゆでたてにエクストラバージンオリーブオイルをさっとふり、塩と黒こしょうを挽きかけてたべるのも◎。あるいはポーチドエッグを添え、黄身をぷちゅんとつぶして、からませたものも絶品なり。う〜ん、プランタ〜ン(春)、トレビア〜ン。
佐伯明子

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