味彩通信
Vol.62-2006.8・9
卵かけごはん道

 私はマンションの1室を住居兼仕事場として使っているので、基本的に通勤というものはなく、取材ででかける時以外は、食事は自分で作って食べています。
 料理をすることは苦にならないし、自分の食べたいものをバランスよく摂れるので、これはこれで悪くないものなのですが、締切りが押して原稿が立て込んでくると話は別。とにかく時間が惜しいので、支度にも後片付けにも手をかけたくない!でもインスタント食品で済ませたくない!というわけで冬場は、ポトフを作っておいたり鶏手羽でとったブイヨンで汁かけご飯にしたり、にゅうめんにしたりと、とにかく温めてひと手間加えるだけで2〜3日は使い回して食べられるものを大鍋いっぱいに用意しておくのですが、食べ物の足が早い夏場はさすがに無理。

 そこで時々御世話になるのが卵かけごはんです。
 なにしろごはんと卵と醤油があればいいわけで、こんなに手軽な食事はありません。はっきり言ってサルでもできる料理。でもね、これがそう単純なものでもないんだなぁ。
 ちなみにインターネットの「Google」で「たまごかけごはん」を検索したら、な〜んと81,600件もヒットしました。ずず〜っと見ていくと、皆さまいろいろこだわりがあるようで、「日本卵かけごはんシンポジウム」なる催しまであるとか。
 また最近は、卵かけごはん専用の「おたまはん」という醤油(関東風、関西風の2種あり!)が話題を呼んでいたりと、なにやら熱〜いことになっています。
 食べ方もいろいろ、全卵使用派、黄身だけ派、薬味プラス派、卵オンリーのシンプル派と、順列組み合わせでバリエーションは無限大。

 で、かくいう私はといえば、長らく全卵に醤油を垂らしてかき混ぜ、茶碗によそったごはんにかけて食べるという方法をとっていたのですが、実はどうもしっくりきていなかった。というのも、卵と醤油を一緒に混ぜると、ごはんにかけたとき、妙にしょっぱいところと、卵のでろ〜んと生臭いところが交互に現れ、なんだか中途半端なのです。どれだけよく混ぜても混ざりきるということがなく、加えて卵のコシがきれすぎてイマイチ。

 ところがある日、「分とく山(わけとくやま)」という日本料理店の総料理長である野崎洋光氏の著書を読んでいたら、「醤油と卵を一緒に溶くと醤油が沈んでしまう。だから僕、アツアツのごはんの上に先に醤油をたらして、そこに溶いた卵をかける」とあり、思わず膝をたたいてしまいました。なるほどね〜。
 というわけで早速トライしてみたところ...。野崎氏は、溶いた卵に刻んだばかりの強い香りを放っているねぎを加えて混ぜるそうですが、私はどちらかというと、卵とごはんの味をシンプルに楽しみたいほうなので、ねぎ抜き・手抜き・さらに卵を溶かないバージョンを試してみました。

 まず茶碗に炊きたてのごはんをよそい、醤油をササッとふり、真ん中に黄身だけをぽとん。そのまま待つこと15秒。黄身を箸先でちょんとつぶしてから、ひとくちパクッとほおばれば??う〜ん、うまうまのうまうまだぁ〜!
 ごはんの余熱で醤油は、ぷ〜んと香ばしさを増し、卵はほどよく蒸らされ半熟になって、鮮やかな黄色がとろとろり〜んとごはんにからんで輝き、こりゃ絶妙の極み。卵と醤油が、ごはんを真ん中にして仲良く手をつないでスキップしているみたい。また全卵を溶いてかけると、ずるずるっとかきこむ感じになりがちなのですが、卵黄だけだとしゃぶしゃぶせず、じっくりごはんの甘みを噛みしめながら味わえるというおまけ付き。いやはや、まいりましたね。

 皆さん、卵かけごはん道、極めればなかなか奥深いですぞ。
佐伯明子

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