味彩通信
Vol.57-2006.3
雪がくれた贈り物

 立春を過ぎて2月も半ばだと言うのに、外は銀世界です。
 昨年12月はじめにどっかりと降った雪は、少し融けては降り、降ってはまた少し融けて・・・・の繰り返しで、北向きの屋根には1mもの積雪。80歳を過ぎた方も「こんな冬ははじめてだ!」と驚き「いつまで続くのか」と嘆いておられる。
 岩手県南部、私の住む水沢市は例年かなりの積雪があるのだが、こんなに長期間「雪に閉じこめられた」記憶はない。凍結した道路に毎朝、毎晩悪戦苦闘してぐったりと疲れる。朝、憂鬱な気分で窓の外をながめる。車の屋根に積もる雪が昨夜の積雪量、30センチ積もったこともある。

 そんな朝、外は意外にも賑わっている。
 ご近所が玄関先の雪かきに大忙し、出勤のために暖気運転をしながら車の雪をはらい通路を確保し、未明に通る除雪車が道の端に寄せていった雪をよけて、やれやれやっとご出勤となる。
 ある朝、どっかりと降った雪に重装備で玄関を出たらなんと通路ができていた。「あっ!」とお隣に電話をかけると「ついでだから」と奥さんの声。「いつもありがとうございます」「いいの、いいの、またね!」。
 単身赴任で夫不在、私といえば足にハンディがあり松葉杖使用、息子はまだ7歳。そんな隣人を気遣ってお隣の奥さん、お向かいのご主人、三軒先の農家の老夫婦と皆さりげなく除雪をしてくれる。地方の新興住宅地に住んで7年目、ご近所の存在がこれほど有り難いものかと寒い朝にも心は暖かくなる。

 もうひとつ、冬の朝の「おたのしみ」がある。
 仕事柄野菜のくずやパンの耳がたくさん出るので、細かくきざんで軒先にまく。雪に覆われた朝には餌が採れないのであろうたくさんの鳥たちが集まる。
 多数派のスズメは用心深く、覗いてみるとすぐに飛び立つ。セキレイは結構のんきにかまえていて、尾を振りながら餌をついばみあちこちをながめている。ヒヨドリはいつもつがいで飛んできては、お互いに鳴き交わして餌を食べている。
 昨シーズンから登場したキジは、ほかの鳥たちが、飛んでくるのに対しとことこ歩いてのアプローチ。私の視線に気づくとこれまたとっとこと小走りに去って行く。初めて庭のキジを見たときは「わぁキジ!」と息子を呼んで二人息をひそめてのぞいた。メスのキジで、二羽一緒にきたりもする。「オスが見たい」と息子、オスの羽がきれいなのは図鑑で調べた。
 「おとうさんキジはこないのかな?」「白鳥もきてほしいな」「カラスはうるさいからいいや」雪面に残された様々な足跡をながめながら、息子の願いはつづく。
 りんごの皮と芯、玄米茶のお茶殻やキャベツの芯も好評ですぐになくなっている。不評だったのは人参のしっぽ、細かく刻んでやったのにしばらく残っていた。
 すててしまえばごみだけど、こうして食べてもらえばきれいになくなる。ささやかながらも環境にやさしいこと、と息子に聞かせる。
 そんな鳥たちからお返しをもらうこともある。昨年夏、庭の隅に30cmばかりの南天を発見、彼らのフンに種が混じっていたのだろう。同様の野バラは大分大きくなって楽しみにしていたのだが、たまたま帰国した夫が日頃のご無沙汰の穴埋めに草取りをしてくれて、雑草とともに捨てられてしまった。

 厳しい冬、ほんとうに春がまちどおしい。
 雪がくれたさまざまな贈り物に感謝しながら、いつかくる北国の春を待っています。

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及川喜久子

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