味彩通信
Vol.54-2005.11
たかが大根おろし、されど大根おろし

 我が家の冷蔵庫には一年中、大根が入っています。
 みそ汁に入れたり、ちょっと塩でもんでお漬けものにしたり、せん切りにしてサラダやナムルにしたりと、なにかと便利に使えるので、きらしたことがないのです。
 特にこの時期の大根は、包丁をすぱーんと入れると、切り口からじわりと汁がにじみ、瑞々しくて本当においしそう。冬が近くなったなぁ、としみじみ感じるひとときです。

 さて、このところ私が凝っているのが、なんと“大根おろし”。
 実は先日、とある北陸の割烹料理屋さんで、特産の“のどぐろ”(赤ムツ)の塩焼きをいただいたのですが、お魚もさることながら、その横にちょこんと添えられた大根おろしが、これまた衝撃的なおいしさ!なんとも甘く、口の中でとろとろととろけ、まるでなめらかなソルベのよう。大根が違うのか、それともなにか特別な仕事がしてあるのか??ご主人に伺うと、ポイントはひとつ、「銅のおろし金でおろすのがコツやな」だそうで。えっ、それだけ?それでこんなにおいしいの?

 そして折しも、帰りの飛行機でめくっていた雑誌に、「切れ味抜群!大根が喜ぶ銅のおろし金」というコラムを発見。ひとつひとつ手打ちで作られているというおろし金は、みるからに頼もしく、ここで出会ったのもなにかのご縁、えぇ、えぇ、早速注文してみましたともさ。

 ところで、銅のおろし金がなぜいいかというと、とにかくよく切れて、細胞のひとつひとつをつぶさないから、余分な水分が流れ出さないのだそう。家庭用のものでおよそ5000円くらいしますが、20年使って、修理に出してまたそこから20年は使えるというのですから、まさに一生もの。
 実際使ってみると、ほとんど力もいらず、さらっ、ふわっとした大根おろしが、おもしろいようにすりおろされていきます。もちろん味は、お店でいただいたものと遜色なし。どんぶり一杯でも食べられそう。

 使用後は、歯ブラシを使って優しく洗い、できればクレンザーで磨いておけばなおよし。そして水けをきって、さっと拭いて吊しておきます。こうしてみると、普通のおろし金に比べ、確かにちょっと手入れは手間で、昔の道具がすたれていく理由もわからないではありませんが、なにしろその味を知ってしまうと、手放せないスグレモノであることも間違いなし。こんな身近な食べ物が、道具ひとつで印象がまったく変わってしまうのを見ると、料理の奥深さについて、いろいろ考えさせられます。

 たかが大根おろし、されど大根おろし。う〜む、おそるべし。

佐伯明子

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