味彩通信
Vol.52-2005.8・9
祝!おひつデビュー

 厳しい暑さは残るものの、早いところではそろそろ新米の便りが聞かれる今日この頃。日本人に生まれた喜びを噛みしめる季節も、もうすぐそこです。ことに今年の私は、おひつを手に入れたばかりで、鼻息も荒く、やる気満々。

 実はこれまでもおひつを欲しいとは思っていたのですが、なかなかこれぞ、というものに巡り会えず、タイミングを逸していた次第。しかしこの夏ついに、とある雑誌の取材で、秋田の曲げわっぱ工房を訪れることになりました。「いよいよ会えるのか?運命の王子様に」と、取材前から胸を躍らせていた私のサイフの紐は、確かに出発前からかなりゆるかったはず…。

 訪れた工房で待ちかまえていたのは、白木の香りも清々しい曲げわっぱ作品の数々。「秋田杉にもいろいろあって、植林したものもあるし、まだまだ若いものもあるけど、ウチで使うのは、200年ものの天然秋田杉でね。目がきちっと詰まってるのよ」。とつとつと曲げわっぱの魅力を語り始める職人・柴田慶信さんの最初の言葉にまず1グラリ。「いわゆる普通のおひつはタガで締めてあるから、使っているうちに木が縮むとタガも緩むけど、曲げわっぱはへいだ木をぐるっと曲げてつくるから、タガそのものが必要ないんだよね」。これでまた2グラリ。「底の角のところが、垂直になってると、そこにごはんがこびりつくでしょ」。そうです、そうです。「だからウチではゆるい丸みをつけてるの」。3グラリ。まずい。あ、でも、ウチせいぜい一度に炊くのは2合までなんです。あんまり大きいのはちょっと…。「あ、2合用のもあるよ」。ちなみにお値段は、と最後の抵抗を試みる私。「2万8000円」。そ、それはちょっと私にはぜいたくかも、と言いかけたその時…。「でも今日は特別割引きするよ」。あ〜〜〜、もうダメだ。たんたんと、そして熱く口説かれた後、あっけなく陥落。どうにでも好きにしてちょうだいっっ!っていうか、初めから口説かれるつもりだったくせに。ちぇっ。

 そして帰りの飛行機の中には、ニタニタと不気味な笑いを浮かべ、おひつをなで回している私の姿があったのでした。

 でもこの運命の王子様、本当に使えば使うほど惚れ直してしまうスグレモノ。きめの細かい木肌はほどよくごはんの水けを呼吸し、茶碗によそえばほのかな杉の香りがふわり。冷めたごはんもべたつかず、お茶漬けにすれば、ほろりさらりと崩れます。チャーハンだって、パラッと炒め上がる頼もしさ。夏のお米でこれですもの。秋の新米になったら…。おひつさま、一生ついて参りますっ!

佐伯明子

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