味彩通信
Vol.46-2005.1・2
コトコト、ふうふう

 この季節になると、ポトフやおでんなど、鍋まかせの煮込み料理が作りたくなります。部屋いっぱいに広がるいい匂いと、鍋から立ちのぼるふわふわの白い湯気、そしてコトコトという静かな音は、それだけで幸せな気分を運んでくれるごちそう。

 そういえば、最近読んだ「感じる食育 楽しい食育」(サカイ優佳子・田平恵美 著[コモンズ])という本の中に、ちょっとおもしろいことが書いてありました。この本によれば、日本語は触覚的な感性が著しく発達している言語で、食に関しても表現する言葉が非常に多いのだそう。なんでも著者が、日本での生活が長いアメリカ人に尋ねてみたところ、「納豆のネバネバはsticky、ご飯もsticky、餅のもちもちはsticly and chewy、長いものネバトロはslimy。“もっちり”“ぺたぺた”“まったり”“ねっとり”“ねばねば”などは、訳すのがとてもむずかしい」と言われたとか。私は英語はさっぱりなのですが、たとえば確かに“コトコト”なんていう言葉も日本語ならではかもしれません。

 さて、今年はこの季節に備えて、フランスで造られている「ル・クルーゼ」というシリーズの鍋を買いました。ご存じの方も多いと思いますが、これがまたとてつもない重さ。買ったのは直径24cmなのですが、蓋と合わせると、持ち上げる時思わず「よいしょっ!」と声がでてしまうような代物です。でもいかにも、「おいしいもの?もう、まっかせてくださいっ!」てな風情。料理心がうずうずします。そこで近所の八百屋さんに出かけたところ…。ありましたありました。太くて真っ白、つややかな大根が。それから緑濃い春菊。ついでにお隣の肉屋さんで豚のスペアリブをゲット。これで準備は万端。ご紹介いたしますのは、「大根とスペアリブのスープ」です。
 さてさて、大根が透き通って柔らかくなればできあがり。スペアリブとともに器に盛って、細かく刻んだ春菊を生のままたっぷり散らします。スペアリブの旨みをたっぷり含んだ大根はとろとろと熱く、お肉も骨からぽろっとはずれるくらい柔らか。余熱でほどよくしんなりした春菊のほのかな苦みがアクセントです。ふうふうしながら、スプーンを口に運ぶひとときは至福。まさに冬ならではの幸せです。

佐伯明子

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