味彩通信
Vol.37-2004.3
節分

 正法寺は大きさ日本一の茅葺屋根を持つ曹洞宗の古刹である。岩手県水沢市の市街地から南東方向、北上山地に分け入った山すそに位置している。総本山永平寺、鶴見の総持寺と並んで、「三大本山」と称された歴史をもつ。

 寒の入り、僧達の寒修行がはじまる。墨染めの衣に地下足袋、饅頭笠に錫杖のいでたちで水沢市内を托鉢してまわる。若い僧の叫ぶような読経は風雪に乗って路地を流れていく。根雪に吹雪の日、一面の白い世界は僧達にとってはまさに修行であるが、私にとっては「残しておきたいふるさとの景色」となる。

 その寒修行も節分の前日で終わり、喜捨をした家々に「立春大吉」と書かれた御札が僧達の手でまわされる。この「立春大吉」の御札をいただくと「春近し」の気分になるから不思議である。

 さて、節分。仕事で遅く帰宅すると、5歳の息子が「豆まきしたよ」の報告。めんどうを見てもらっている妹一家と夕食のあと豆まきをしたとのこと。「はい、おみやげ」と袋に入った豆を手渡された。妹が笑いながら「亮太がんばったのよ!お母さんの年の数だけ豆を数えたんだから…」。中一・中三の甥達も「かなりたいへんそうだった」と笑っている。息子よ、ありがとう。母の年を数えるのはさぞかし根気のいる事だったろうね。感謝しながら豆をいただいた。

 この、豆まきの「豆」は、以前は殻付きの落花生が主流だったが、ここ1、2年大豆の「炒り豆」が復活の兆しをみせ、スーパーの店頭にも数種類並んでいた。

 昨年、近郊の農家の若い主婦達を対象に、大豆料理の講習をしたのだが、半数がこの「炒り豆」を知らなかった。節分にまくのは「ピーナツ」との答え。大豆を炒って「おやつ」にすることは、ほとんどがはじめてだという。稲作の減反政策の一環として、転作に大豆を作っている農家の主婦がこの状態なのだ。

 近頃、大豆の持つすばらしい健康効果をマスコミが取り上げはじめた。みそ・しょうゆ・豆腐・油揚げ等、大豆食品を中心とした日本型の食事は理にかなったダイエット食である。発酵食品には多くアミノ酸やビタミンが含まれ、良質の植物たんぱくを摂ることができる。

 正法寺からさらに東、ひと山越したところ大東町猿沢にお住まいの小野寺あや子さんは60歳代の椎茸農家の奥さんだが、「親から受け継いだものを自分だけでも作り続けたい」と自家製の大豆で「凍み豆腐」を作り続けている。もちろん自家消費用で、分けていただいたその凍み豆腐の歯ごたえは絶品であった。前出の若い主婦達に食べさせてみたかったが、もったいないのでやめた。

 「ポリポリ、シャリシャリ」と炒り豆を噛む。
大豆の「イソフラボン」と5歳の息子のパワーをもらって、まだまだ厳しい岩手の冬を楽しんで暮らそう!

及川喜久子

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