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「料理研究家の先生やレストランのシェフにお話を伺う仕事をしています」というと、「それではご自身も料理がお得意なんでしょうねぇ」と返されることが多いのですが、実は私、それほど料理は得意ではありません。もちろん料理すること自体は大好きなのですが、生来のせっかちと横着が災いしてかあと30秒待つとかここでもう一度裏ごしするということがどうも苦手。また料理を作り終わった時点で、キッチンはキレイに片づいていたいので、洗い物の面倒な大きな鍋やボウルはなるべく使わないでできるシンプルなメニューに走りがちです。それでも時にはその料理を人に褒めてもらえるのには、ちょっとした秘密が・・・。
もうずいぶん前になりますが、西麻布にある「分とく山」という有名な割烹料理屋さんを取材した時のことです。確か、炊き込みご飯などのご飯料理を紹介していただくという企画だったと思うのですが、その取材の合間、料理長の野崎洋光さんが「ねぇ、ちょっとこれ、食べてみて」といって小さなお茶碗を手渡してくれました。お茶碗の中には、土鍋で炊いたつややかな白いご飯。そしてその上におもむろに野崎さんが、たらったらっとかけたのはしょうゆらしき黒い液体。「料理屋さんでねこまんま??」と思いつつ手に取ると、ふわわわんと焼きたてのお煎餅のような香ばしい匂い。さっそくお箸で小さくすくって口に入れた途端・・・思わず「あっ!」と声が出てしまいました。
「どうです、うまいでしょう」とうなずく野崎さん。この液体はいったい、と目顔で問いかける私に、野崎さんは「ただのしょうゆですよ。ただしとってもおいしい、ね」とひとこと。醸造元を伺って、さっそく取り寄せてみたのですが、この茨城は「小田屋」というところの「割烹大吟醸醤油」(名前もなんだかやんごとない感じでしょう?)、味わうほどにきりりと濃厚で、それでいて実にすがすがしい。人間にたとえるなら、育ちよく、濃い眉毛の下の目元涼しい青年剣士といった風情です。
刺身によし、ゆでただけのほうれん草にひとかけしてよし、鬼おろしでザクザクとおろした大根に釜揚げしらすでものせてさっとかけますれば、もうそれはそれは幸せなおいしさ。私の得意とするシンプルな、いや、この小学生でもできるような簡単な料理を、立派な一品にランクアップさせてくれたのはもちろんこのしょうゆです。ここで調味料の大切さとおいしさに目覚めた私は、以来、しょうゆに限らず、みそ、酢、塩などあらゆる調味料のフリークとなりました。
脂ののったかつおには九州のとろりと甘いしょうゆ、炒めた野菜を入れたみそ汁にはコクのある津軽みそ、酢豚には四川の黒酢・・・というわけで、今なお愛用している「小田屋」のしょうゆに加え、旅に出るたび買い込んだ調味料でウチの冷蔵庫の野菜室はぎっしり。自分でも困ったものだと思いつつ、来週はしょうゆの名産地、小豆島に出張なんだよなぁ。うっしっし。
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