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食べることと、本を読むこと、昼寝すること以外、趣味らしい趣味を持たない私にとって、フードライターという職業は、まさに実益を兼ねたまたとない仕事。流行のレストランや風情ある地方の旅館、人気料理研究家の方々の料理などなど、今度はどんな味に出会えるのだろうと取材はいつも楽しみなのですが、時には同じものを何日も続けて食べ続けなくてはならないこともあり、途中で「もうかんべんしてくれ〜!」と叫び出したくなることもしばしば。イラクや北朝鮮の子ども達のことを考えれば本当に申し訳ない話ですが、それがたとえ極上のステーキだろうと、究極の寿司であろうと短期間に10回も立て続けとなると、さすがに食傷気味になります。
しかし、これまでのそうした取材の中でただひとつ、朝から晩まで2日間で10軒の店を取材して食べ続けてなお、“まだまだ喰える”と思わしめるものがありました。それはなにを隠そう讃岐うどん。
讃岐うどんはこのところ東京でもブレイクの兆しを見せ、専門店もあちこちにできてテレビや雑誌でもずいぶん取り上げられていますが、私が初めて出会ったのはもう4〜5年も前、本場・讃岐(香川県)でのことでありました。取材前は「所詮うどんはうどん。小麦粉と塩と水だけでできてるものにそんなに違いがあるもんかい」とたかをくくっていたのですが、これがなぁんと大間違い。讃岐うどんは関西のうどんなどと違い、基本的には出汁や具を楽しむというより、シンプルにうどんそのものの味を味わうといったものなのですが、10軒行けば10軒ともそれぞれに個性があり、味、食感のバリエーションは多彩。そのうまさに、すっかりノックアウトされてしまったのでした。
以来、「あの味をもう一度!」と会えなくなった恋人を偲ぶように焦がれ続け、再びチャンスが巡って来たのがこの4月。しかし出発前、張り切って旅支度を調えながら、一瞬よぎる不安。「あ〜、もしかして長く思い続けるあまり、私のアタマの中でうどんのイメージが美化されすぎて、がっかりしたらどうしよう」。まぁ、結論からいえば杞憂に過ぎませんでしたけど。
今回は2日間で8軒(ちなみに香川県下にあるうどん屋さんは750軒にものぼるとか)。1軒でだいたい2杯ずつ食べたので、計およそ16杯。讃岐うどんのバリエーションは簡単に分けると、冷たい麺に冷たい出汁(ひやひや)、温かい麺に温かい出汁(あつあつ)、冷たい麺に温かい出汁(ひやあつ)、出汁を張らずにしょうゆをさっと回しかける通称ぶっかけの4種類が主流です。どれもおいしいけれど、個人的には麺の個性がよくわかるひやひやかぶっかけが好み。茹で上ったのち冷水できりりと引き締められたうどんに、薬味の青ねぎを散らし、いりこの香りがふわりと漂う清冽な出汁をたっぷりかけて。エッジがピッと立った、キラキラと輝くばかりのうどんをずるるう〜っとすすりこめば・・・口中をくすぐるようなエロティックなまでの食感、噛みしめるたびに立ちのぼる豊かな粉の香り、出汁のしみじみとした味わい。あぁ、もう、たまらんっ!しかも、製麺所などがやっているセルフサービスの店などはこれで1杯100円前後。トッピングとして天ぷらや油揚げをのせてもせいぜい200円。ガムすら買えるか買えないかくらいの値段でこのうまさ、感涙ものです。また、4軒目を回る頃になると店ごとの味の比較ができるようになり、細腰のが好きとかねじれがしっかりあるのがいいとか自分の好みもわかってきて、これまたおもしろい。まさに讃岐はうどんのテーマパーク。ビバ!讃岐うどん。思い出すだけでゴクリと喉が鳴る、罪なヤツです。
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